豚に対する怒り。 紀元前二〇〇〇年代のエジプトの壁画には、こんにちの豚よりもやせて脚の長い、その当時の豚が描かれている。 いうまでもなく、これらの豚は、先祖であるイノシシにたいそうよく似ている。 けれども、古代エジプトにおけるかれらの立場はあいまいであった。 いっぽうでは、豚はあきらかにある目的のために銅われていたが、他方では、豚には何世紀にもわたって消えずに現れる烙印があると考えられていた。 この奇妙な考えから、豚を食べることはきびしく禁じられた。 現在でもなお、ある民族のあいだでは豚を食べることは罪とされている。 この姿勢は、ファラオ[古代エジプト王]の時代から引きつがれているようである。 例によって、ヘロドトスに教えてもらうことにしよう。 エジプト人のあいだでは「豚橡不浄な動物と見なされており、それゆえもし通りがかりの男が誤って豚にふれると、かれはただちに川のほうへ走っていき、衣服を着たまま川に飛びこむ」と、これを見ていた旅行者が伝えている。 けれども、次の事実はこれと矛盾しているように思われる。 ヘロドトスはのちに「不浄な」豚は神にいけにえとして供えられ、祭司たちによって食べられたと述べている。 |