ゲシュタポ[ナチスの秘密国家警察]に捕らえられたのは、比較的わずかな羽の使者たちだけであった。 その通信文は、常にちがう暗号で書かれていたので、たとえ鳩が捕らえられても、ほんの少しの秘密が解読されたにすぎなかった。 日本の新聞社は、かつて有名なロイター通信社がしていたように、いまでも白社の伝書鳩隊をもっている。 新聞記者にとっては、長い通信文をラジオや電話で送稿するよりも鳩に逗ばせたほうが安上がりであり、またばあいによっては早いこともある。 こんにち、日本のどの新聞社も、伝書鳩を送稿用に使っていない。 鳩の愛好家たちが自分の鳩に求めるのは、確実な方位感と、あるコースを通じて高速度で飛ぷことである。 ひんぱんに開催される国際伝書鳩競技会では、小さな体の選手たちが熱心に参加して、記録がつくられては破られている。 この空中の競争者たちは、九六〇キロメートル以上の距離を飛んでいる。 バルセロナ[スペイン東北部の港]で放たれた西ドイツから出場の伝書鳩は、自分の小屋にもどるのに約一二〇〇キロメートルを飛ばなければならない。 もう一つのよく使われる出発点はブダペスト[ハンガリーの首都]で、ここから目的地の西ドイツのルール地方まで約九六〇キロメートルある。 また、マルセイユ[仏の地中海に臨む港]で放たれた鳩は、ドイツへ帰るのに同じ距離を飛ぶが、どちらのばあいにもまったく疲労の色を見せていない。 チャンピオンには高額の賞金が授与される。 ある鳩の愛好家協会は、自分たちの鳩を競技の出発地に運ぶために、特製の運搬車をもっている。 たいせつな鳩たちを、旅行のあいだ完全に安楽な状態で運ぶため特別に注文してつくらせる「鳩急 行」は、一軒の家の価格に匹敵するほどである。 |